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「いらっしゃいませ、お好きな席へどうぞ」
「ありがとうございます」
訪れた約束の金曜日の夜。晴斗は富之を連れて『ナイトムーン』の店内へと入って行ったのだった。マスターの温かい笑みに、晴斗はお辞儀をすると、富之もぺこりとお辞儀をするのだった。初めて見るからだろうか、富之は目を瞬かせながら、辺りをきょろきょろと物珍し気に見回していた。そんな富之の様子が、初めて訪れた時の自分の姿を連想させて、晴斗はくすりと笑った。ちらりと、カウンター席の奥に視線をやると、いつも座っている場所には、愁の姿が無い事に気付く。晴斗が「あれ?」と不思議そうに首を傾げていると、洋平が声を掛けてきた。
「いらっしゃい、晴斗くん。愁はね、急な仕事が入ったみたいで、今日は来られないみたいなんだ」
「そうなんですか……」
愁の姿が無い事に、晴斗は少しだけ落ち込んだ。けれども、今日は友達を連れ来ての来店だったから、ある意味では愁がいなくて良かったのかもしれないと、思い直す事にした。洋平はちらりと、晴斗の隣にいる富之に対して人懐っこい笑みで挨拶をした。
「そちらの方は、初めましてだね。俺は月村洋平って言うんだ。このお店のバーテンダーをやっているんだ、よろしくね」
「……影島富之と申します。晴斗と同じ大学に通っている大学生です、よろしくお願いします」
洋平の明るい笑顔によって、富之の緊張が解れたように晴斗には見えて、ほっと安心したのだった。既にテーブル席は人がいて空いておらず、空いていたカウンター席へと座ることにした。洋平がなれた手つきでカクテルのメニュー表を差し出してくるので、晴斗は「ありがとうございます」とお礼を告げて受け取った。
「そういえば、富之くんってお酒飲めるの?」
「うん。特にカクテルが好きだな」
メニュー表を開きながら、たくさん種類のあるカクテルに、富之は嬉しそうに目を瞬かせた。表情にはあまり出ないが、富之のはしゃいでいる様子が伝わって来て、晴斗は嬉しく思うのだった。
「晴斗くん、富之くん。注文は決まったかな?」
「えっと、俺はカルーアミルクを」
「ラモンジンフィズをお願いします」
「かしこまりました。ちょっと待っていてね」
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