6話

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「俺はね、ただいま恋人募集中なんだけれども、どうかな富之くん。立候補してみない?」  悪戯っぽい笑みを浮かべながら告げる洋平に、微笑ましく晴斗は見ていた。ふと、富之の方を見てみると、耳を真っ赤にしている事に気付いてしまった。富之は目を瞬かせると、照れた様に顔を紅く染まらせて、呟いたのだった。 「……月村さんのこと、もっと知りたい」  ぽつりと零された富之の言葉は、熱っぽく真剣だった。洋平の方を見ると、虚をつかれた様な表情を浮かべた後、見る見るうちに顔を紅く染まらせていった。初めて見る洋平の表情に、晴斗は目を瞬かせるのだった。 「参ったな、そう返されるとは思っていなかった。……これをどうぞ、富之くん」  頭をかきながら、照れくさそうに洋平は一枚の名刺を富之に渡した。渡された名刺を横から覗き込むと、洋平の連絡先が書いてあったのだった。 「……いいんですか?」 「俺も富之くんのことが、知りたいからね」  先ほどとは違う悪戯っぽい笑みではなくて、真剣な表情を浮かべ笑いながら富之を見つめている洋平の姿があった。晴斗は、友達の小さな恋の芽生えに、そっと祝福をするのだった。
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