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7話
それから晴斗は、一週間に一度訪れる金曜日の夜、バイトで稼いだお金を握り締めながら、遅い時間帯に『ナイトムーン』という名の飲酒店に向かう。また富之の時間が合った時には、誘って行くこともあった。毎回会えるとは限らないが店内に入ると、決まって愁は、奥のあまり人目がつかないカウンター席に静かに座っていた。その姿に見惚れそうになりながらも晴斗は、心臓の鼓動が鳴るのを隠しながら、緊張しながら、愁に対して声をかける。
「愁さん」
「来たか、晴斗」
愁に視線で促されるようにして、空いている隣の席に晴斗はおずおずと座るのだった。その時に、洋平かマスターが「何になさいますか」と聞いてくるので、晴斗は決まって「カルーアミルクで」と頼んだ。しばらくすると、マスターが綺麗な淡い茶色のカルーアミルクをグラスに注いでくれたので、晴斗は受け取ると一口飲んだ。甘いまろやかな味が口の中に広がってとても美味しく感じた。
愁と晴斗が出会う時は、決まって最初に晴斗が酒を頼む。そうして、晴斗の緊張を解してから、ホテルに向かうと言う事にしていた。不思議と愁とは、何も会話しなくても、静かな時間を過ごすことは苦痛では無く、むしろ晴斗はその時間がとても居心地が良くて好きだった。それがいつしか、切っ掛けは分からないが、お互いに一言二言会話をするようになっていった。晴斗から会話を切り出すこともあれば、愁からも会話を切り出すことがあった。それが、晴斗にとってすごく嬉しい事に思えた。そのおかげで、愁と晴斗は少しずつ仲良くなっていった。
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