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8話
(もう、そろそろ潮時なのかもしれない……)
晴斗は財布の中身を確認しながら、一人重たい溜息を吐いていた。バイトで稼いできた金がそろそろ無くなりそうになっていたのだった。自分の生活費も考えてみて、愁と一緒に過ごす金が無い事実に、頭と心が痛み出しそうだった。
知らず知らずのうちに晴斗は、愁に恋をしていた。それは、初めて出会った時に、初めて助けてくれた時に、初めて抱いてくれた夜の時に、いつしか晴斗の心は愁に奪われていた。けれど晴斗は、あの日の夜に愁に言われた言葉を思い出す。
『金しか信用していない』
愁にはっきりと告げられた言葉。金の無い自分はもう用済みかもしれない。それならば、愁から潔く離れた方がいいのだろうかと晴斗は考える。考えてみて、せめて、今まで最高の夜と優しくて甘い夢を与えてくれた愁に対して、何かお礼は出来ないだろうか。考え込みながら晴斗は、ふらふらと街中を歩いていた。
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