1話

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 まるで猫を連想させるかの様に、人懐っこく笑いかける店員は、月村洋平と名乗った。気さくに話しかけてくる洋平に対して、晴斗も自己紹介をすると、緊張した面持ちで、ぺこりとお辞儀をするのだった。 「緊張するのも無理はないよね。そうだ、何か飲み物でも飲む? お酒は美味しいし、お酒が苦手な人の為にノンアルコールも用意しているんだ」  明るく笑いながら洋平は、メニュー表を晴斗に手渡した。「どうも」と短く礼を告げて、受け取った晴斗はメニュー表を眺める。せっかく飲酒店に来たのだから、カクテルは飲んでみたいと晴斗は思った。たくさんの種類が書かれたお酒に、圧倒されそうになりながらも、見知ったカクテルの名前を見つけて、緊張しながら指を差した。 「えっと……、カルーアミルクをお願いします」 「カルーアミルクね、ちょっと待っていてね。マスター、カルーアミルクをお願いします!」  以前の同窓会で初めて飲んだカクテルのカルーアミルクを思い出して、晴斗は注文する。洋平が緊張を和らげる様に笑いながら、マスターに注文を告げる。マスターは柔和な笑みを浮かべながら、カルーアミルクを作っていく。洗練された動作に、晴斗は目を瞬かせていると、いつの間にかカルーアミルクが出来上がっていた。洋平はテーブルの上にことりと置くと、人懐っこい笑顔を浮かべる。 「晴斗くん、どうぞ。ゆっくり、くつろいでいってね」 「ありがとうございます、月村さん」  そう告げると、洋平は手をひらひらとさせながら、店内の奥に戻って行ってしまった。綺麗なグラスに注がれたカルーアミルクは、とても綺麗な淡い茶色をしていて、きらきらと煌めいた。晴斗は目を瞬かせながら、カルーアミルクを一口だけ口に含む。お酒の独特の味わいの中に、甘い味が口の中に広がりとても美味しく感じた。思わず何杯でも飲めそうだと思うが、あまり酒に強い方では無い晴斗は、酔ってしまう事を恐れて止める。どこか落ち着かない様子で、店内を晴斗はぐるりと見回していた。
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