2話

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「よぉ、兄ちゃん」  声を掛けられた方を見ると、下卑た笑みを浮かべスーツをだらしなく着込んだ男と目が合う。いやらしく品定めするように、晴斗の身体を見てくる。晴斗は直感で、関わったら絶対にいけない人だと思い、少し距離を取る。男は気にせずに、晴斗の隣に強引に座ると、晴斗の太ももに手を置くと、性感を煽る手つきで触れてくる。あからさまな意思表示に、晴斗は背筋が、ぞわりと悪寒が走る。 「ちょっと俺に付き合えよ」 「こ、困ります……」  晴斗は弱弱しくも嫌だと安易に告げて首を横に振る。小さな声で拒絶をするが、男は気にした素振りを見せない。むしろ、嫌がる晴斗に対して興奮したのか、下卑た笑みを見せながら口角をあげてくる。男からは強い酒の臭いがして、かなりの量を飲んで、酔っぱらっているという事が嫌でも分かってしまう。 「この店にいるってことは、あれだろ。いくら払えばいいんだ?」 「お、俺は、売っていません……」 「こんな可愛い顔して売っていないだなんて、勿体ないな。買ってやるよ」  男は懐から札束を出すと、晴斗の頬にぺしんと叩きつける。晴斗は目を見開いて、男の行動に驚いて身体が固まってしまう。男はますます晴斗の腰に触れたりしてくる。晴斗はマスターにも洋平に対しても、迷惑かけたくない一心で目を瞑る。自分だけが今この時間を我慢すれば、反応が悪い事に男は諦めてくれるだろうかと俯いた、その時だった。 「おい、そいつは俺の客だ」  心地よい低音が店内に響き渡る。えっ、と思いながら晴斗は恐る恐る顔を上げると、そこにいたのは、奥のカウンター席で、一人静かに座っていた晴斗が見惚れていた男性だった。
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