5話

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5話

 そうして、晴斗にとって待ち遠しかった金曜日の夜が訪れた。一週間前に訪れたというのに、飲酒店『ナイトムーン』のドアを開ける瞬間、ドキドキしてしまって仕方が無かった。大学の誰かに見られていないか、きょろきょろと辺りを見回した。誰も見知った人がいない事が分かった晴斗は、ほっと一安心しながらも深呼吸をした。 (……よしっ、開けよう)  気持ちを落ち着かせてから、扉に手を掛けるのだった。店内に入ると、一週間前と同じ、様々な種類の酒の匂いが香って、酒に弱い晴斗は酔いしれそうになる。 「やぁこんばんは、晴斗くん」 「こんばんは、月村さん」  人懐っこい笑みを浮かべながら、店員の洋平は晴斗に声を掛けたのだった。晴斗は見知った相手がいる事に、一安心して律儀にぺこりとお辞儀をした。そして、そわそわとしながら、店内をきょろきょろと見回してみると、カウンター席の奥に座っている人物に目に入った。 (愁さんだ……!)  目当ての人物を見つけた晴斗は、ぱぁっと明るい笑顔になる。相変わらず、物静かに座っている様子も絵になるくらいに格好良い。けれど、愁に対して声を掛けようか考えた所で、晴斗は緊張してしまい声が出ない事に気付く。どうしようかとあたふたしていると、愁が振り返って、晴斗の方を見た。口角を上げて悪い笑みを浮かべると、愁は口を開いた。 「俺を買いに来たのか」  すでに予想していたのだろうか、愁は特に驚く様子も無く言ってのけるので、晴斗は羞恥心から顔を紅く染まらせながら、こくりと頷いた。そんな晴斗の様子を、愁は満足げに見つめる。隣に座る様に促してくるので、晴斗は「失礼します」と小声でおずおずと告げながら、カウンター席に座るのだった。
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