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凛子は目を醒ました。
どうやら祖母の家の窓枠に寄りかかったまま居眠りをしていたようだ。
「おばあちゃん?」
凛子は祖母を呼んだが、返事はない。家の中に人の気配はなく、もう夜だというのに電気も点いていなかった。
真っ暗闇の家の中を凛子は手探りで歩いた。
仏間のあたりだけ、蝋燭でも灯してあるようにポウっと仄明るい。
凛子がおそるおそる仏間を覗くと、ぼんやりとした薄明かりの中で、部屋の真ん中に誰かが寝ていた。
誰なのかはよくわからない。
なぜならば、その顔には小さな白い布が被せられていたから。
布団の傍らに立って、寝ている「誰か」をじっと見下ろす。
寝ているのは、凛子と同じような背格好の女の子で、凛子と同じような髪型で、凛子にすごくよく似ている子供だった。
(でも、私じゃないわ)と、凛子は思った。
(私はこんな白い着物を着て寝たりしないし、寝るときに顔に布を被せたりしないもの)
「りんこちゃん」
再び、母の声が耳に響いた。
目を上げると、布団の向こう側に黒い「影」が座っていた。
凛子には、その影が母なのかツンツン様なのか、もはやよく分からなくなっていた。
「りんこちゃん・・・・・・おいで・・・・・・」
顔のない、黒い人影が手招きする。
凛子は布団に横たわる女の子の体を跨いで、影に歩み寄った。
影が凛子を抱き締める。影の腕の中で凛子の体はぼろぼろと崩れ、やがて影の中に溶け込むように姿が消えた。
仏間を照らしていた明かりがふうっと吹き消すように消えた。
あとには、真っ黒い暗闇と、いつまでも続く波の音だけが残った。
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