第二章 此が有れば彼が有り、此が無ければ彼が無い

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その点、俺の職業はからしの配達なので、こいつ等に注意をしたところで一目散に逃げるという選択は絶対ではなくなるのだ。警察と比べたらその可能性はゼロに近い位になるだろう。 夜中にこっそり一人でやってる愚か者だったら、注意しても逃げるだろうが、この白昼に堂々と落書きをしているくらいだし、しかも大勢ときたら態度も度胸も人一倍大きくなっていることだろう。 そうこう一人で妄想しながら歩いているといつの間にか落書き小僧の所に到着したではないか。 「オッサン、なんか妖怪」 「ギャハハハハ」  俺の、いやいや、こいつらのボキャブラリーが低いのか大抵の低能な奴らの俺に対する第一声がよく似たワンパターンな気がするが。 「何やってんのかな?まぁ落書きだって見たらわかるんだけどな」  橋の下には六人の若造共がいた。スプレーで落書きをしているのは二人だけで残りの四人はその落書きを見たり、石を川に投げたりと退屈しのぎでもしているような感じだった。 その退屈しのぎに春が舞い降りたように生き生きと俺の声掛けに対して反論をしてきてくれた。 「誰が落書きじゃい!アートだよアート。殺すぞ」  おっかない言葉遣いをしてくれる。世界中のアート作品を作る人に落書きですねと侮辱したとしても、いきなり殺すぞとは言われないだろう。それ程こいつらのアートにかける情熱が高いってことか。そんなわけない。     
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