第二章 此が有れば彼が有り、此が無ければ彼が無い

66/75
前へ
/217ページ
次へ
恐らく咥えて行った犬が、俺に持ってきてくれた犬に偶然ブラックソードが触れたのだろう。“W”が消化された犬は俺に届けてくれたってことか。なんとも運が良いのだろうか。これからは今日みたいな油断から始まった不注意は無くさねばならないと誓った。結局、俺もブラックソードが無かったら凡人なのだから。 しかもブラックソードを無くしたとか言ったらどんなに怒られることか。怒られるならまだしも、研修期間延長とか失格とか、クビになったらシャレにならん。俺は更に気を引き締めて、待ち合わせの駅に足を進めた。 「おつかれさま」 「ホント疲れたよー。今日からやっと早く寝れるわ」 「テスト終わってからゆっくりできるのは頑張った証だよな」 「今回はホント頑張ったからね。ウタル先生のおかげかも」 「今日は素直だな。いつもこれくらい素直にしておけばいいのに」 「だって今日は事務所に呼ばれるしテスト頑張って終えたお礼に甘いものご褒美してくれる約束でしょ?約束は今からするんだけどね」  まぁあれだけ頑張ったし一息ついた日くらい甘いもので一時の幸せを感じても(バチ)は当たるまい。 暫く他愛もないことを喋りながら歩いて事務所前に着いた。 「素敵なオフィスビルね」  お世辞にも素敵とか綺麗とか言えない雑居ビルに驚きも躊躇(ためら)いもないのは、怪しい仕事に怪しい事務所だが二階の窓には“からし屋マタジ”の看板ステッカーが貼ってあるからだろうか。     
/217ページ

最初のコメントを投稿しよう!

56人が本棚に入れています
本棚に追加