第三章 嘘の幸せと真実の絶望と

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第三章 嘘の幸せと真実の絶望と

 ―23― 胸躍らせ足軽やかに  テストが終わり後は夏休みを待つだけの幸せな日々が続いていくのだが受験生には夏休みも淡々と過ごす日もなかった。  テスト期間中の濃密な勉強の余韻があるのかテスト後も家庭教師として見る限り勉強は捗っていた。  ぼちぼちと返ってくるテストの点数に自信が溢れてくるのだろう。  一生懸命やった結果が報われるような点数を取って帰ってくるからだ。  全てのテストが帰ってきた時には八十点代が一教科だけでそれ以外の教科は九十点を上回っていたので俺も驚いた。  これはひょっとしたらクラス一桁の目標もまんざらではないような気がしてきたのは本人も思っているだろう。  旅行という夢を叶える為に努力したのか、元々やれば出来る素材にスイッチを入れるだけだったのかは愚問だろう。  学生にとって点数というのは一番明白に評価できる代物なのだから。  子供の頃は一生懸命することが美徳とされていた。  今でも一生懸命取り組む事は決して悪いことではない。  しかし社会というのは必ずしも一生懸命やった者が報われる場所ではないということだ。  これは子供の頃には教えてくれないこと、大人になるにつれ経験していくことだ。     
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