第三章 嘘の幸せと真実の絶望と

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「バター少々?今日は全部いっちゃうことにこだわりました」「チョコ?今日はイカ墨にこだわりました」とかきまぐれなのだろうか?これじゃ殆ど無法者パティシエだな。  これなら『こだわりパティシエのきまぐれチーズケーキ』の方がマシだろうか? 「おい!あいつはまだ出勤してないのか?」 「はい、卵にこだわりたいと言って昨夜から養鶏場で働いてます。その前はバターにこだわりたいと言って北海道に行ってたのを連れ戻したばかりですが」  普通に首だわな。いや、そこまでこだわったのなら最高品質のケーキができるのではないだろうか? 「納得のケーキができん!」と言って捨てては作り直す職人気質か?いや、昭和の名残がそこにあってこその昭和堂かも!? 「なんじゃこりゃ!?このチーズケーキの試食、スッカスカやないかい!」 「最高の材料でチーズケーキ作ってたんですけど、途中でシフォンケーキが作りたくなって」  きまぐれかーい!そこはこだわって!お願いだから。  おっと、店頭のブラックボードの前で十分も妄想してたら、俺がこだわりの客に見られてしまうな。奴のケーキを見極める眼力は只ならぬ!って店員にマークされては今後の買い物に支障がでるやもしれん。ここは空気のように気配を消して入店せねばなるまい。 「ご注文はお決まりですか?」     
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