第三章 嘘の幸せと真実の絶望と

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―28― 神話のカケラ  木曜日、昨日の雨も上がりアスファルトからの熱気が夏を感じさせる。  涼しい風が吹いて気持ち良かったので朝から隣駅近くの公園までランニングをしてきた。  人がまばらな街の風景は早起きのご褒美のように周りの空間を独占させてくれる。  並木の影を走れば心地よさが丁度良い。常連らしきランナーも走りやすいコースを熟知しているようだ。  事務所に戻ってからいつものように所長との訓練で、普段のキレが戻ってきたと言ってくれたのが嬉しかったが新しい技はまだ教えてくれなかった。  曜子からあれば丁度良かったが、相変わらず連絡はなかったのだが昨日豚平(ぶたひら)さんから預かったペンダントを返しにいく口実が今日はあるからだろうか、朝から調子が良い。  俺でもまだ壮大すぎて半信半疑な部分があるくらいだが、説明して曜子はなんて思うのだろうか。  自分の御先祖様が代々受け継いできた物が月の欠片だったなんてロマンチックという言葉で片付けるかな、と思うと口元が自然と緩んでしまう。  器が大きいのか深く物事を考えない性格なのか。既にそんな印象を俺の中に植え付けていること自体に驚きなのだが。     
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