第三章 嘘の幸せと真実の絶望と

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 だが、聞けば医者を目指させたのも子供たちの将来を思ってのことで、思いやりの伝え方に温度差があったという感じだ。そりゃ子供の頃は勉強勉強と五月蠅くない親の方が有り難いが実際子供の事を本当に心配しているのは五月蠅い親の方だが、それに気付くのは大人の仲間入りする頃だというのが悲しい現実なのだ。  小さい頃から看護師を夢見てきた曜子を頭ごなしに医者になることを植え付けてきたのが間違いだったと、曜子の夢を尊重すべきだったと両親も後悔されている。  結局その歪は反抗期も重なって修復が容易なものでは無くなったというわけだ。曜子が意地になっているのもあるのかもしれないが。  しかし、医者を目指す教育をしてくれていたおかげで看護師になる為の大学も現在の成績であれば十分射程圏内であることを伝え、それもご両親の今までの教育方針のおかげであることを曜子に言った時には素直に受け入れていた。  「……ですので、来年の春には志望の大学に合格できるところまで来てますので、ご両親も安心していてください。それと、差し出がましいかもしれませんが曜子さんとご両親との仲の修復は私が緩衝材になりますので任せて貰えませんか?」  親子は仲良くあるべきだ。しかも憎しみ合ってる訳じゃないのなら尚更だ。素直な気持ちで言ったのだが、余計なお世話と言われたら諦めるしかあるまい。  どう返事が来るか待っていたのだが、母親は片手で目を押さる仕草をした。  「ごめんなさい……」     
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