第三章 嘘の幸せと真実の絶望と

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「ジンです。こちらはカルアミルクです」  お疲れ、とだけ言って所長はジンを飲み、俺はグラスを握り揺らしながら呼吸を整えていた。  コーヒーリキュールを多めにしたカルアミルクは俺の喉を通り適度な甘さで落ち着かせてくれた。 「……曜子、家に行っても居なくて」  事の成り行きを話してから曜子の病気と寿命の事を伝えた。  言葉にするだけで現実を目の当たりにするようで苦しくなる。父親もあの時こんな苦しい気持ちだったのだろうと考えただけで現実逃避したくなる。 「俺達のやってる事は無意味なのでしょうか?悪事を働く奴らを成敗しても、病気や事故で命を落とす人は絶えないんですよ」  事実を聞いてから無気力になった自分を(さげす)む気持ちで出た言葉だった。 「大切な人が目の前で病んでいくのに無力だからと言って何もしなければ一生後悔するぞ。無力でも何かできるはずだ、それを探して全力でするんだ。お前が今から医者にでもなるのか?違うだろ?お前にしかできないことをするんだ。懈怠(けたい)の心を払拭しろよ」     
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