第三章 嘘の幸せと真実の絶望と

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 いつもと違う真剣な所長の言葉に俺は考えさせられた。今の俺にできること……。こないだまで順調と思っていた日々の生活が一変して地獄に落とされた気分だった。その俺にできること。簡単な答えがパッ出てこない時のもどかしい気分だった。 「殺人を犯す奴が事前に分かり成敗できれば良いがそうも上手くいかない。だが、今俺達がしてる事を続けることで救われる人がいる。その人がどこかで誰かを救ってくれるかもしれない。それがいつか回り回ってお前の大切な人を救ってくれるかもしれない、と信じて行動するんだ。」  世の中は数珠つなぎで動いている輪廻なんだと所長は言った。世の中は繋がっていて、誰かの為でも世の中の為でも間接的に誰かを救っていずれ自分に返ってくるのだと言う。  誰かの悲しみがいつか自分の悲しみになり  誰かの幸せがいつか自分の幸せになる。  飲み終えたグラスを置いて同じものを注文する所長はカツサンドに手を伸ばしながら言った。 「人は死ぬまで生きなければならない。食べなきゃ死ぬしな。自ら命を絶ってはいけないんだよ。神に与えられた命は大切に育てていかなければならない。しかし、どんな良い人でも死は突然やって来るし、どんなに悪い人でも長生きすることもあるだろ」  認めたくはないがそれが現実なのだから仕方なかった。グラスの中で混ざり合うリキュールとミルクを見ながら話しの続きに耳を傾けた。     
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