第三章 嘘の幸せと真実の絶望と

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「頭の運動だと思って思い出してみてください」  マスターはそう言ってグラスを拭き続けていた。 「けど死んだら意味ないじゃないですか」 「そう人も、神でさえもいつか必ず死ぬんだよ。イザナキとイザナミから愛が生れた代償として死からは免れないんだよ。俺やウタルが今日死なない保証は一切ないんだぞ。明日死ぬかもしれないんだぞ。だから死ぬまで精一杯生きる、そして死なないように日々努力して生きることが大事なんだ」  死んでしまっては、それから良いことが起こっても意味がない。じゃあ曜子は今、意味のない人生を送っているのだろうか。あんなに元気で看護師になる為に勉強も頑張っているのに。  何の為に?曜子は何の為に頑張って勉強してたのだろうか?自分の寿命に逆らっているのか?俺は頭が回らず訳が分からなくなってしまった。 「いつ死ぬか、それは人それぞれだが死ぬまでにどう生きてきたのかが重要なんじゃないのか。曜子ちゃんは短くても人生を全うしようとしてるのかも知れないな」  死ぬのに普通の女子高生として生きることを選んだっていうことなのか。 「じゃあ今のお前が曜子ちゃんの為に何ができるのか?本当に死ぬのか?助かる道は無いのか?生きる希望を与えるのか?」     
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