第三章 嘘の幸せと真実の絶望と

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 ―29― 隠密刺客 「所長って強いんですね」  初めて見る所長の戦いに、嬉しさと驚きが共存して少し興奮気味だった。 「ウタルも今まで通りに訓練続ければ、これくらいはできるよ。お前には素質もあるからな」  誉めて伸ばす。例えその言葉が過剰であっても俺は素直に嬉しく思い、朝からの訓練も続けようという励みになる。 「こいつら意識戻すのに時間かかりますね。それだけ重い犯罪者ってことですよね」  基準を法律に乗っ取ってるわけではないのだが、人の心を浄化するのに、モラルも含めて基本的に重罪の奴等が意識を戻す時間は長かった。  浄化された犯罪者は心新たにして自首するのだが、一斉に自首するのも不自然だということで、今回のような場合は警察の検挙で終わらせる。 「そろそろ豚平(とんぺい)に連絡しとくか。鮭島って刑事は直接の知り合いじゃないからな」 「それにしても今日の"W"は合体なんかして、口から炎も出してヤバい奴でしたね。所長はいつもあんなのと戦っているのですか?」 「あぁ」  所長の返事は重いように感じた。所長にしては特にピンチではなかったと思うのだが、何か府に落ちない様子だった。     
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