第三章 嘘の幸せと真実の絶望と

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 それに、今日のような"W"を俺一人の時に出くわしたら本当に戦えるのか不安にもなった。所長が使った今日の技を早めに修得しなければと強く思うと、明日からの訓練が少し楽しみにもなった。 「豚平(とんぺい)、終わったぞ。けど、いつもと様子が違うというか、なんていうのかなぁ……」  『日比谷君、気をつけた方がいい。何か探りを入れてる奴等がいるみたいだ』。 「……探り?」  『詳しいことはまた明日、そっちにいってから話すよ』。  電話の内容が良くなかったのか、切った後スマホをポケットに仕舞わないで何か考えているようだった。  その時、背中越しから大きな音が聞こえ、即座に振り向くと、二階建ての家程ある倉庫の本扉が勢いよく開いていたるところだった。  分厚い鉄板の扉を、玄関扉を開けるかのうに片手で易々と動かした奴は、二メートルは軽く越えているような巨漢だった。  対照的に隣にいる奴は細身で小柄に見えたが、あの巨漢が隣に並ばれると誰でも小柄に見えるだろう。  上下白っぽい同じ服を着た二人はおそらく男だろう。小柄な方は色白く整った顔立ちだが、冷めた目が印象的だった。  一瞬、ここに来るのなら鯱島という刑事かと思ったが、腰に差している刀を見て違うとわかった。 「誰ですか?」  所長は応えず、暫く二人を見ていたが。 「こっちもお客さんのようだな」     
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