第三章 嘘の幸せと真実の絶望と

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 だが、意識は確実にあったのだが、自分の中に別の自分が無意識に表れて戦っていたのだろうか、ダンパーの叫び声によって無意識の自分が消えて行った気がした。  周りの雑音に意識がかき乱され、敵の動きも先程のスローの状態ではなく目で追うのがやっとだった。  三人目の男がセルフィーオを制御するように俺との間に立ち塞がり、投げつけてきた煙幕で俺達の視界を奪う。 「くそっ!」  死角のどこからかの攻撃に備え周りに気を配る。それはこの視界でダンパーの攻撃が来たら交わせないと思ったからだったが、所長に軽く肩をたたかれた。 「奴等はもういないから安心しろ」 「所長……追いかけましょう!追って捕まえないと、あんなのを野放しにしていたら大変ですよ!」 「いや、死に物狂いで逃げる者ほど怖いものはないんだぞ。それに鮮やかな引き際だった。セルフィ―オとダンパーの二人を抱えて一瞬で俺達の前から姿をくらましたあの三人目の奴、ひょっとしたら只者ではないのかもしれないな。喋り口調からしてあいつらよりランクは下のように感じたがそれも演技か、考えすぎかもしれないが仲間内でものし上がるのに騙し合いをしている非情な連中なのかもしれんな」  一気に力が抜けた俺は立っていることもできず膝を落とした。炎を(まと)っていたブラックソードはいつの間にか元に戻っていて、床に転がった。     
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