第一章 夢から覚めたら

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 普通なら水沢さんとか、アンズさんって呼ぶのが良いのだろうけど脳内で何回も梓さんって呼んでるからリアルでも呼んでしまうだろうし、なにより所長の出す気さくな雰囲気が堅苦しいガードを外してくれたような気がした。 「改めまして、月野ウタル。二十二歳、独身です」 「知ってる。履歴書に書いてるから」  所長はそう言いながら立ち上がって自己紹介をした俺に手で座れと促す。 「ウタルって変わった名前ね」  梓さんはまだマグカップを両手で持ったままだった。熱くて飲み辛いのか? 「はい、本当はワタルにしたかったのですが父親の字が汚くてウタルになったとか、母親が歌が好きで歌太郎とかウタウとか候補の中から決めたとか諸説あります」  実際の所は俺も知らないのだが、どの理由であっても今は自分の名前が気に入っているから問題ではない。  所長も名前のところは軽くスルーしてくれたみたいだ。  俺は注がれたコーヒーを飲み終わるまで、経歴について色々所長と話をした。  大学中退のこと、奨学金返済やアパートを出ることなどそれこそ本当は採用前の面接で聞かれるような話をした。  前置きで所長は採用を取り下げる理由にはならないから気楽に本当のことを話してくれたら良いよって言ってくれたのが本当に話しやすかった。  大学中退やニートのことなど、自分を正当化して言い訳がましく説明する事に後ろめたさがあったからだ。     
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