最終章 智慧

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最終章 智慧

 ―31― 最後の晩餐    今日は久々にゆっくり朝寝をした。  こんなに遅くまで寝るつもりはなかったのだが、昨日の疲れが思った以上に残っていたのだろう、もうすぐ時刻はお昼になろうとしていた。  所長も今日の訓練には出ないと言っていた。なんでも本部から緊急の招集命令が出るだろうってことで。  案の定、事務所は電気も付いてなく休日状態だ。これで招集命令が出ているのに所長がまだ部屋で寝ていたら笑えるのだが。  シャワーを浴び、朝と昼兼用の食事であるパンとコーヒーの支度をして事務所のソファに腰かけた。休みでも土曜日は何着かあるいつものスーツを着ることにしている。今日はクリーニング上がりのを着ることにした。  いつもの所長と梓さんが居ない事務所に一人でいるのはなんだか寂しいような、けど落ち着くような、誰も居ない事務所には少し違和感があった。  出来上がったコーヒーを飲みながら窓の外を歩く人を眺めていると、パンが焼きあがった知らせの音が鳴ったが、そのまま所長が言った昨夜の言葉を思い出していた。  所長が、昨夜の事は一旦忘れろと言った。麻薬組織の連中が死んだ事は止めれなかったが、全ての人間を救える事はできないんだと。  ただ、救わなければならない人もいる、絶対救いたい人もいる、俺達が救う人間を区別することは絶対許されないが、救えなかったとしても一々悔やんでる時間はない。  悔やんでる間にも、救わなければいけない人が悪の心に(むしば)われているんだと。  コーヒーをお代わりしながら、何か大事なことを忘れているような気がして仕方がなかった。  
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