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美味しそうにケーキを食べる曜子の姿を見てると、何かの間違いなのではないかとさえ思ってしまう。間違いであって欲しいという願望の眼鏡をかけているせいかもしれないが。
「本当だよ。私は死ぬっていう選択をしたの」
この玄関美味しいね。どこの店?って聞くようなテンションで言う曜子に改めて驚かされる。
ただ、選択?という俺の問いかけには何も答えなかった。
「どうして、死ぬの?」
「私、病気なの。病名は白血病。持って後一年って言われてからどれくらい経ったかなぁ」
一年という期間が既に始まっている事に改めて、死ぬ現実に襲われそうになる。
「じゃあ入院してたのもその影響で?」
「そうよ。けど大したことないのにお母さん心配性だから」
俺は、テストの順位が悪くて不貞腐れているとばかり思っていたのだが、比べるのも申し訳ない位まだそっちの方がマシだった。
聞きたい事は山ほどあるのに、何からどれ程聞けば良いのか訳がわからなくなってしまった俺は、落ち着かせる為に紅茶のカップを手に取ろうとした。
ところが手元が狂い、掴みそこなったカップは倒れ、中の紅茶がこぼれてしまった。
もう夏だと言うのに、熱い紅茶を飲んでる事をちょっと後悔するように、飛び散った紅茶が針で刺したように肌に求めていない刺激を与えてくる。
「ちょっと、なにやってんのよ。ホントとろいんだからぁ」
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