最終章 智慧

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 慌てて勢いよく取り出したティッシュをテーブルにこぼれた紅茶に乗せ、ハンカチで俺に飛び散った紅茶を拭いてくれた。  無防備な曜子がすぐ手の届く所にいる。俺は一生懸命拭いてくれる曜子の手を握り、強く抱きしめる……ことができなかった。  手慣れた男性なら、簡単に抱きしめるのだろうか。抱きしめたいから抱きしめる。そんな時に相手の気持ちは関係ないのか?  俺が手慣れていたら抱きしめていただろうか?考えても仕方ないが、ハプニングを利用してすることではない。  しかし、かつてこんなに接近したことがあっただろうか。勉強を教えているときにあったかもしれなが、その時は邪心という下心は全くなかったはずだ。  じゃあ今は下心があるのか。違う、下心で抱きしめたいのではない。恋心かと言われると、なにか違うような気もする。  曜子が病気だからか。可哀想だからなのか。抱きしめて何かが救われるのか。  拭き終わった曜子は離れてテーブルの上を綺麗にしてティッシュをごみ箱にポイッと捨てた。  新たに注がれた紅茶を今度はこぼさないように慎重に手に取った。 「その、治る手段とかないの?抗がん剤治療とか」 「あったよ」  あるのか。いや、あったという過去形が気になる。 「私の場合、進行が早くてね、見つけた時にはもう厳しいかもって状況だったの」 「それでも……」     
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