最終章 智慧

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  ―33― 人間万事塞翁が馬    そして春、桜は散る。  四季がある日本に生まれて本当に良かったと、桜を見ながら思う心は何を意味するのだろうか。  冬の厳しさを乗り越えたから、春の暖かみをより感じることができる。  詩人も画家も作曲家も、色んな人達が桜の表現で春を表してきただろう。  桜は新たな旅立ちの別れを見送り、これからの可能性の出会いを見守る。何十年も何百年も昔から変わらず、その場所で物語の一部であり続ける。  その桜は一年近くかけ、少しずつ少しずつ開花に向けて準備をしていく。  一年近く待ち続けて誕生を喜ばれるのは、母の胎内で育んだ赤ん坊のようである。  満開の時間はたった数日。一年かけて成長した桜の花びらは散り、また一年の眠りにつく。  もっと長く咲き続ければ良いのにという人の心を笑うかのように、桜の花びらは毎年舞い散っていく。  桜は満開で人の心を奪う。それはあまりにも短い時間だからなのだろうか?仮に満開の時間が長ければ、人は当たり前という感情が芽生え、有り難みが薄れるのだろう。  朝、目覚めて何かを食べて何かを与えられ、眠りにつく夜までが当たり前の日々。     
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