最終章 智慧

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「またいつか来ようね」という曜子の言葉に俺はそっと頷いた。  ちょっとしたボタンの掛け違いから生まれた家族との歪み。  十代で白血病という突然目の前に現れた死の宣告。  生きることを拒絶るすという選択をした彼女。じわりと時間を掛けて確実に近づいてくる死界への扉。  なんとか治療をして、生きる希望を失ってほしくなかった俺は勇気付けるつもりだったが、結局勇気付けられていたのは俺の方だった。  明るく元気に振る舞う姿が病を忘れさせ、時折疲れた表情を見せる姿に切なさを感じたが、閉ざしていた心を払拭し、全力で今を生き、これからも生き続けることを誓ってくれた。  けれど、勇気をあざ笑うかのように迫ってくる病。 「一人じゃないんだね」  目を覚ました君はしばらく天井を眺め、今の状況を頭の中で考えていたのだろうか。  ベッドに横たわる君は、当たり前の事を初めて知ったかのようにつぶやいた。  人は一人では生きてはいけない。  誰かに助けられ、誰かを助ける。  君や所長に助けられて、今ここに俺が生きていられる事実。  俺が誰かを助けたら、知らない誰かがどこかで助かっている。  これが君の望んだ世界なんだろ?  昔、思い出せなかった言葉が『人間万事塞翁が馬』     
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