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三人の真ん中に座っている梓さんは、同じものをマスターに頼んで話に割って入る。
「所長のお人好しは、年収の殆どを寄付してるのよ」
「いいって、梓ちゃん」
所長は照れくさそうな顔をしてジンを飲む。
「児童施設にね。貯金もせず毎年してるのよ。だから結婚できないのよ」
「老後は梓ちゃんに世話になりまーす」
抱きつこうとする所長を必死で押し返す梓ちゃんの顔が赤らんでいるのは酒のせいだろうか?
「所長はなんで寄付してるんですか?」
「俺か?俺みたいなオッサンが自分の為や老後に使うより、これからの子供たちが育っていく為に使った方がお金も喜ぶだろ?老後に困ったら会社に泣きついて再雇用してもらうさ」
明るく笑いながらの所長の言葉にはいつも勇気付けられる。
「俺、奨学金返して、親に旅行でもプレゼントしたいんです」
「いいんじゃない」
所長と梓さんは頷いてくれる。
「今年はそんなに余らないと思うから少ないけど、来年からはたくさん寄付しようと思ってたんです。所長もしてたなんて驚きですけど」
所長は「やるなぁ」と言ってくれた。
梓さんは「貯金もしときなさいよ。結婚できなくなるわよ」と、女性らしいアドバイスをくれた。
「どんなに愛してても、貯金できてなかったら曜子ちゃんに愛想つかされるわよ」
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