第二章 此が有れば彼が有り、此が無ければ彼が無い

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「まぁそういうことだ。死ぬ時は死ぬ、そんな職業だ。ただ簡単に死ぬわけにはいかないから最善の努力をしようってことだ。ウタルにその気持ちがあるなら何時でも訓練に付き合うぜ」 「ありがとうございます」  心から感謝の気持ちを言ったのを久しく思った。  この日から俺は所長に空いた時間で訓練を頼んだ。早めに出勤して地下の部屋で自主トレも始めた。所長の訓練は時に厳しい時もあったが自分の体力不足と認め自主トレに励むよう逆境に耐えれる精神も少し成長したような気がした。  辛い時は逃げ出せばいい。勝てないと思った“W”が出たら逃げて所長に頼めばいいじゃないか。昔の俺だったらこう言って訓練から逃げ出していただろう。いや最初から訓練なんかしないで適当に仕事をしていたかもしれないな。無理なら辞めればいいとか安易な考えだったかもしれない。一歩踏み出すということがどんなに簡単でどんなに人生に大切なことなのか昔の自分に言い聞かせたいくらいだ。  今日、この一歩を踏み出す選択をしなかったら、あの時よりもっと早くに死んでいただろうなとはこの時の俺は知る由もなかった。      ※    あれから毎日、朝は自主トレをして仕事業務の空いた時間に所長に訓練をしてもらい夜には曜子の家で家庭教師という一見ハードに見える生活だが俺は心身ともに充実感を得ていた。     
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