第二章 此が有れば彼が有り、此が無ければ彼が無い

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「怖い夢を見たんじゃないのに、泣きながら目を覚ますの。あぁ今朝も泣いてるんだって。自分でもなんで泣いてるのかわからないの。ある日泣きながら目を覚ます自分が悔しくて鏡に写る自分に話しかけたの。変でしょ?笑うでしょ?」 「笑わないよ」 「最初は自分の泣き顔を鏡で見てただけなのよ。毎日泣き顔見てたらさ、なに泣いてんのよ、バカじゃないの?って。鏡に写るのは自分なのに白い顔でさ、『助けて』って言ってるように思うようになったの。最初は気のせいって思ってたんだけどね。なんにも聞こえないし思わない時もあるし」  ロマンチストな男ならこんな時、なんて台詞(セリフ)が思い浮かぶのだろうか。女性がどんな言葉を求めているかを瞬時に判断して言える。イケてる男とそうでない男の差はこんな時にも出るのだろうか。ならばと俺もロマンチストな言葉で曜子の求める返事に挑戦することにした。 「先祖代々受け継いできた鏡だから、先祖の日照り不足なんかの時の『助けてー』って祈りが写って聞こえた気がしたんじゃねーのか?」  俺は自分の限界を感じた。これはニート期間があった言い訳は通用しなさそうだ。元々の俺のセンスがこの程度なのだろう。 「嘘だと思ってるんでしょ?」 「思ってないよ」 「嘘だと思って、バカなこと言ってるって思ってるからそんなバカみたいなこと言うんでしょ?」 「いや今のは俺の脳みその中にあるセンスをフルに使ってでた言葉なんだが」     
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