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私、決めました!
『以上、プロポーズスポット特集でした! 続いては今、大人気! 可愛くて美味しいチョコレート特集――』
番組が切り替わり、釘付けになっていた画面から目を離す。
ソファーに背を預け、凝った身体を大きく逸らした。コキコキと小さく骨が鳴る。
目を開いた先、風呂上がりの彼が現れた。景色ごと反転している。
「千代、風呂お先。で、ひっくり返ってどうしたの?」
濡れた髪を拭きながら、穏やかな笑みを飾っている。だが、流しっぱなしの放送に目を向け、ぱっと表情を変化させた。
二種類の笑顔は、どちらも愛らしい。
「番組に集中しすぎてね、終わったから伸びてた。これも面白そうだから、お風呂は見たら入ってくるね。て言うか一緒に見るでしょ?」
「見る見る。チョコ特集かー、食べたくなるなー」
「ねー」
彼は、画面を見詰めたまま、私の横に移動した。
肩が触れ合うくらい、間近に腰掛ける。いつも使っているはずの、シャンプーの香りが心地良かった。
彼、佐藤 景は恋人だ。付き合い始めて四年になる。加えて半年ほど同棲もしており、今ではすっかり家族のような存在になっていた。
周りからも、「素敵な夫婦ね」と間違われるくらいだ。その度に「まだですよ」と否定すると、心の底から驚かれた。
そうなれば、なぜ結婚しないのか、と聞かれるが単純な理由だ。
なぜなら、私たちがのんびりカップルだからである。
早急に結婚を考える二人も居れば、そこに至るまでの期間が長い二人も存在する。その後者だっただけの話だ。
しかし、最近近所や職場から立て続けに話が持ち上がり、意識するようになっているのも事実だった。
そろそろ結婚しても良いのではないか、そう考えるようになって来た。
ただ、彼の意思が分からず、少し怖く思っているのが本音だ。否定は無いとしても、早いと考えている可能性もあるだろう。
だから、中々一歩が踏み出せなかった。
しかし、踏み出さなくては進まないのも現実だ。
そう考えた私は、計画した。その上で決めた。
明日、彼にプロポーズする。
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