序章 500連発

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  「は?別に負けてねぇし。寧ろ一方的に逃亡を図った夏目の完全敗北だし。一体何を見ていたんだろうねこの爽やか眼鏡くんは。眼鏡の度合ってないんじゃね?」  そんなわけで、俺の吉川への態度は大体こんな調子である。 「いや、今来たとこだから勝負の成り行きは見てないんだけどさ。俺の爽やか眼鏡には夏目さんが散らかしたゴミを一人で片付けさせられてる生徒会長の姿がハッキリ見えてるんだけど。とても勝者には見えないんだけど」  眉間の皺を吉川に見せつけながら片付け終えると、夏目の忘れ物一式を肩に掛け、バケツを持ち上げる。 「そんなことを言うためだけにわざわざ生徒会室から来たのか。学園祭直前で暇でもないだろうに」  溜め息を吐き校舎の中に入り、開け放たれていたドアを閉め、空から降ってきた鍵を使いしっかり施錠。 「これからミーティングしようってとこで花火の音聞いて飛び出してったのは幸人だろ。会長がいないんじゃミーティングも進められないってんでみんな……おっ?」  言葉の途中で吉川は何かに気付いたように壁へ屈み込み、ドアの陰に隠れていたその何かを拾い上げて俺に差し出した。 『会長さんへ おつかれさま! バッグは明日取りに行きます』  バケツを吉川に持たせ、差出人不明の付箋紙が貼られた缶コーヒーをニヤニヤしている吉川から奪い取り、プルタブを開けて一気に飲み干す。
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