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「無糖か。ささやかな悪戯心のつもりだろうが、俺は小学生の頃から生粋のブラック派だ。残念だったな!」
「悪戯じゃなくて、幸人の好みまで知ってた上での気遣いだとしたら、もうこの上ない負けだと思う」
肩を叩く吉川にもう一度何か言い返そうと口を開くものの、出てくるのは溜め息くらいのもので、数秒頭を回転させた後、絞り出せたのは「ごもっともだな」という肯定の言葉だった。
ゴミ捨て場から生徒会室へ戻る途中、すれ違うほとんどの生徒が俺の顔を見て囁き合い、その内の半分程は吉川に先刻の花火騒動の顛末を尋ね、この件がSNSや噂話によって明日の朝までには全校生徒へ浸透することが容易に想像できた。
「またひとつ、新たな“伝説”が生まれたな」
吉川が呟くと、俺はわざと聞こえるような舌打ちで返事をした。
誰が言い始めたとか、そういうことではないんだろう。ここ端山学園の高等部に在籍する夏目涼。彼女が巻き起こす騒ぎ、破天荒な行動がいつしかそう呼ばれるようになったらしい。
夏目涼は容姿に恵まれている。例えば、この端山学園で高等部から入学した生徒が中等部からの内部進学組10人に「夏目涼は美人なのか」と訊いて回れば、15人が「美少女だ」と答えるくらいの容姿をしている。
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