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「幸人、そろそろ夏目さんに勝てばいいのに」
「ああ?」
咄嗟にとぼけた俺に特に言い返すこともなく、吉川は生徒会室のドアを開けた。
「ただいまー」
他の生徒会役員達に挨拶する吉川の背を見つめ、俺は入室を躊躇った。
俺が今年度から生徒会長に就任して以来、夏目涼が巻き起こす騒動にはなるべく首を突っ込むようにしている。今までの生徒会長が黙認してきたことを知りつつも、俺には無闇に騒ぎを起こす輩を放置はできなかった。
夏目はそんな俺を疎ましく思うどころか、俺との勝負を楽しむようになり、敢えて俺が邪魔をしやすい“伝説”を作ろうとしている節すらある。
今日まで俺は夏目に一度も勝てていない。夏目の“伝説”を楽しみにしている生徒達も、俺の噛ませ犬っぷりは“伝説”を引き立てる良いアクセントくらいに思っているらしく、夏目ファンにとっては無粋とも取れる俺の行動への批判は今のところ特に聞いたことがない。
「お疲れ、小西。今日も負けたんだって?」
生徒会書記の田中美由紀がスマホを親指でスクロールしながら、俺に目を向けることなく問いかけた。噂好きな生徒のSNSでも閲覧しているのだろう。
「ま、事象としてはそうなるんだろうな。俺は別に勝負とかしてるわけじゃないけどな!あいつが問題を起こして俺が注意したら卑怯な手を使われて逃がしただけだがな!それを負けと呼びたいやつは呼べばいいさ!俺は他人からの評価で自分を見失う程度の小さな男じゃないからな!」
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