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「負け惜しみが清々しいねぇ」
「あ、さっきの勝負を向かいの校舎から撮ってた人がいるみたいだ。動画上がってる」
「おー、こりゃどう見ても会長の負けだな。ははっ、必死になってフェンスしがみついてら。ウケる」
後藤、野々村、矢野と順番に声を上げ、SNSに投稿された花火500連発騒動の一部始終を捉えた動画を、田中と吉川も加えて覗き込んでいた。こいつら、本当に俺がいない間何も進めていなかったらしい。生徒会長がいないにしても、学園祭を週末に控えた今、何かしらやれることはあるだろうに。
「はぁ……抜け出して悪かった。そろそろ会議を再開しよう」
役員それぞれが気のない返事の声を上げ、ようやく夏目の“伝説”によって中断されていた生徒会活動が再開した。
俺の仲間である生徒会ですら、夏目の“伝説”にはこの関心具合だ。加えて誰も俺が勝つことを望んでいない。
そう思っていたのだが、吉川の先程の発言の真意は如何なるものなのだろうか。俺が夏目に勝ったところで、俺が全校生徒からの不評を買うことは目に見えている。
別にそれを恐れてわざと負けているというわけでもないが、夏目のファンであり、俺の味方でもある吉川が、その双方にとってメリットのないこと──俺の勝利を期待するような発言をするなんて、どういった思惑あってのことなのか。
引っ掛かりつつも、そこに踏み込めば俺の墓穴をも掘りかねない。この学園で一番の親友といえど、まだ触れられたくないことがある。
俺には、まだ誰にも知られたくない秘密があるのだ。
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