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「ふむぅ……柔軟剤のいいにおい」
受け取ったトートバッグを嗅ぎ、にっこり微笑む夏目。成る程この愛嬌が、学園のアイドルと呼ばれる所以というわけか。思わず見とれそうになった眼球を能動的に動かし、視線を夏目から引き剥がした。
「昨日洗濯したってことは、わざわざ乾燥機もかけてくれたんだね。アイロンもかけあるし、気が利いてるねぇ。流石、歴代最秀と呼ばれる特待生にして文武両道の完璧生徒会長小西幸人くん!ありがとっ」
視界を地面だけで埋めてしまった俺に、夏目は何故か肩パンを食らわし、トートバッグをリュックサックに詰めて背負い直し、校舎の昇降口へ歩き始め、立ち止まって振り返り、視線で俺を促した。
まぁ、知らない仲でもない。ここまできて別々に歩くのも不自然か。
「文武両道は言い過ぎだ。特にスポーツは何もやってない」
「でも、定期テストも体力テストも常に1位だって話は有名だよ?それはもう、文武両道でいんじゃない?」
「まぁ、別にいいけど。キャッチコピーは端的で分かり易いに限るしな」
日々の勉強も体力作りも、こうして周りからの評価を上げるため、己の価値を上げるために行っているのだから。夏目の口から俺への誉め言葉が出るのは狙い通りの状況だ。俺の計画は上手くいっている。
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