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勝利を確信した俺の忠言を、夏目は不敵な笑みで受け流す。
「それはどうかな会長さん」
俺の仕草を真似るように、夏目は指を一本立てる。
「一つ、外部入学の会長さんと違い私は中等部の頃から高等部の校舎にもよく来ていたけれど、屋上が立ち入り禁止だなんて聞いたことはないしどこにも記されていないはず。ただ屋上には鍵が掛かっていて入れなくなっているだけ。その鍵が元から開いていたのだとしたら?滅多に来れない屋上に興味本意で踏み入れただけの私に、一体どんな指導が必要だというのかな?」
始まった。今回ばかりは問答の余地無く俺の勝ちだと思っていたが、夏目はまたしても俺に勝負を吹っ掛けてきた。
即ち、夏目に言い逃れられたら俺の負け。今回はそういう勝負というわけだ。
「成る程、一応筋は通っているな。あくまで鍵を開けたのは別の誰かであると。だがお前が見上げていたその爽快な花火はどう言い訳するつもりだ?」
「二つ、たまたま入り込んだ屋上でこんな光景が広がっていれば、空を仰いで見とれるのは当然だよね。私が花火を用意して火を点けたという証拠があるのかな?」
顔の横にピースサインを掲げ、下手過ぎるブラフを無邪気な顔で言ってのける夏目だが、その実俺にはこの暴論を打ち砕く理屈がすぐには思い浮かばず、腕を組んで小さく唸ることしかできなかった。
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