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「へ、へー、そうかなー。私はそうは思わないけどなー」
笑顔のまま、俺から目を逸らしながら、胸ポケットを手で隠した。
「隠すの下手過ぎるだろ」
「そんなことないもん。このポケットには何も入ってないもん」
「はっ、苦し紛れだな。どう見たってその胸ポケットには鍵のような物が入っているじゃないか」
「んーん。ないよ?」
再び胸を張り、勝ち誇った笑顔を取り戻した夏目。夏服ブラウスの薄い生地はキーホルダーのタグとリングを隠しきれていない。どう見たってある。こいつ、何を企んでやがる。
「あると思うなら、会長さんがポケットの中から鍵を出してよ。本当にそんな物があると言うならね!」
胸をより一層張りながら、一歩踏み出す夏目。確かにそのポケットには鍵が入っている。この距離なら見間違いもない。あれは確かに職員室に掛けられている数ある鍵の一つだ。
だがそれを取り出すということは、俺が夏目の胸ポケットに手を入れるということで、その際夏目の胸を触らずに行うことは困難であり、男子生徒が女子生徒の胸を触るという行為は下手をすれば停学にすらなり得る禁忌であり、生徒指導代行権を託されている生徒会長である俺には決して越えることの出来ない一線である。
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