20人が本棚に入れています
本棚に追加
「ぐっ、汚ねぇぞ夏目!」
「え、何が?私は胸ポケットには何も入ってないって言ってるだけだよ?会長さんはそれが納得できない。なら、手を入れて確かめるしか手はないよね。会長さんにやましい気持ちがないなら、できるはずだよね」
ジリジリと間合いを詰める夏目。退く俺。クソ、こんなことで。こんなことで俺が屈してなるものか。まだ手はある。
「ふんっ、それなら田中か後藤を呼べば済む話だ」
授業中以外の使用が校則でも認められている携帯電話を取り出し、アドレス帳を開く。
しかし、俺がスマートフォンの画面に目を向けたその隙を、夏目が見逃すはずもなかった。
「スキありっ」
「しまった!」
慌てて視線を戻すと、そこに立っている夏目は手を天へ掲げていた。その指先は指し示す。空から舞い落ちる鍵の存在を。
「あーっ、空から鍵が落ちてきたよー」
とんでもない大ボラだ。どう考えても今夏目がポケットから取り出し放り投げただけだ。スキありとか言ってるし。だが理屈じゃない。この手は夏目にとって最善手であり、俺を確実に詰ませるものだ。
「このままだと下に落ちちゃうね」
夏目の言う通り、鍵は鋭い放物線を描いて屋上のフェンスをギリギリ乗り越え、下へと落ちる軌道だった。
最初のコメントを投稿しよう!