序章 500連発

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  「クソがっ」  自慢じゃない、という言葉は好きじゃない。俺は今まで人に自慢するためだけに研鑽を積んできた。勉強も、運動も。だから、これは自慢だが、俺は身体能力に自信がある。  鍵が落ちる前にフェンスへ駆け寄りよじ登り、腕を伸ばしてなんとかキャッチ。だがその瞬間、俺は夏目に負けた。 「ナイスキャッチ!じゃ、あとはよっろしくー」  あまりに清々しく、爛々として、愛らしい。その笑顔が扉の向こうに消えた途端、俺は足を滑らせて取り付いたフェンスからズリ落ちた。  夏目は決して成績の良い生徒ではない。今時テストの順位が貼り出されるわけもないので正確な順位は知る由もないが、その知名度故に成績がどの程度なのかということも良く知られている。  おおよそ中位と下位の間をふらふらとしているとの話で、赤点を取った者の単位取得救済措置である補習に参加したことも一度ではないと聞く。  だが、だからと言って能力の低い人間ではないということを、俺は前回の一学期末テストで思い知った。奴は何を血迷ったのか、毎年高等部に定員一名のみで受け入れられている特待生枠を勝ち獲りそれ以来不動の学年1位を守り続けている俺に対し、国数英社理系以外の教科の合計点で勝負を申し入れてきた。  その結果、同点にて引き分けと相成ったのだ。勿論、日頃からの積み重ね故に全教科の合計点では圧倒的な差をつけたが。  夏目涼は普段勉学に興味を持っていないだけで、その能力は極めて優秀であると思い知った。  日頃から再三夏目と勝負を繰り返している俺は確信を持って言える。  夏目涼は切れ者であると。
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