願い

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願い

「俺さ、今会いたい人がいるんだ。」 「会いたい人?」 夕日に照らされた教室。俺と友人の瑞樹は向かい合って話をしていた。 「うん。俺子供の頃親は暴力振るうは学校ではいじめられるはで、結構大変だったじゃん?」 「お、おう。」 「そんな時にお兄さん的な人に出会ったんだよ。あとすっごく優しい人にも。」 「へぇーどんな人なんだ?」 「ああ、えっとな、 今から5年前、俺がまだ12歳の頃に一度この世界は死んでいる。ああ、この言い方は正しくないな。正しくは、俺を含め3人の人間以外の認識から消えている。と言ったほうが正しい。今から5年前、世界各地である現象が急速に広がっていた。それは古今東西なんの例外もなくありとあらゆるものが溶けていく現象。建造物や植物、動物だけでなく人間すら溶けた。ある日突然何の前触れもなく、湯煎にかけたチョコのようにどろりと溶けるのだ。しかし誰も泣き喚いたり騒いだりはしない。なぜなら認識していないからだ。溶けた人間は、その瞬間に全ての人の視界、記憶、つまり認識から消える。それこそ、初めからいなかったように。そして、その人間は一瞬意識が消えたかと思うと、自分でも気づかないほどの速さで体がなくなっていくのだ。痛みも苦しみも悲しみも寂しさも怒りも何もなく。そんな理解不能な現象が蔓延る世界は約4日で消滅した。誰にも認識されないうちに。 そんな中なぜか生き残った人間が3人。一人は俺。そして瑞香(みずか)と達也(たつや)だった。何もかもが溶け真っ白な世界。見渡す限り何もなく、今生きている生物は俺たち3人だけ。しかしあの頃の俺たちに生きているという感覚はなかった。なぜなら一つの記憶が俺たちの精神を蝕んでいたからだ。それは、俺たちだけでなく、世界中の人が溶けていく記憶。誰にも認識されることのなかった現象を俺たち3人だけが認識することができた。
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