0人が本棚に入れています
本棚に追加
「そんなことないよ。すごく動揺してるし混乱してる。でも一応この中だと年上みたいだしね。俺弟も妹もいるから出来るだけ落ち着こうと思ってさ。」
そう言ってふわりと笑う達也。その顔には嘘偽りもない…ように見える。
「大人…なんですね。」
瑞香が言う。大人が何かはわからないが、そんな感じはする。
「そうかな…。ありがとう。とりあえず少し歩かないか?何か見つかるかもしれない。」
達也が立ち上がり、あたりをぐるっと見渡す。しかし眼に映るものは白。白だけだ。
「でも何も見えないですよ。」
俺が立ちあがりながら言う。どこへ行けと?
「ここからは見えないだけなのかもしれない。さあ行こう。」
達也がそう言って、瑞香の手をとって立ち上がらせ歩き出した。俺も後に続く。
「っおっと。」
なぜか急に止まる達也。そしてそのままもう片方の手を差し出してくる。
「はい。蓮君もつなご?」
向けられた手は俺よりも全然大きくて、たくましく見える。そっと手を合わせるとふわっと笑って握ってくれた。俺も握り返す。そのまま何歩か歩いているうちに俺は気づいた。達也の手が冷たく震えていることに。
「さてと、歩いてはみたけど何もないな。」
「そう、ですね。」
達也と瑞香が歩きながら話す。歩き始めてもう2時間近く経つか?時計も携帯も、というより何も持っていないから時間感覚がよくわからない。 でもそれよりも、
「なんか全然疲れないんだけど…。俺だけ?」
達也が頬を引きつらせながら聞く。たしかに…。
「結構歩いたのに全然疲れないですね…。」
瑞香もそのようだ。
「蓮は?」
「俺も。全然疲れない。足痛くない。」
「だよなぁー。おかしいよな。だって蓮まだ12だろ?なんかスポーツとかやってた?」
「全然。むしろずっと本読んでる。」
「へー。でもそんな感じするなー。瑞香は?何かスポーツやったりしてた?」
「私は部活でバレーを…。」
「へー!バレー部かぁ!俺バスケ部だよ!」
「は、はぁ。」
なんとも言えない顔をする瑞香。確かにどう返せというのか…。
「あっ!あれ!」
どこぞの冒険家のような声を上げて、達也が立ち止まった。そして俺の手を離し遠くを指差す。
最初のコメントを投稿しよう!