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ゆっくりと目を開けると、黒い球の代わりに、10歳ぐらいの女の子が立っていた。よく見ると心なしか瑞香に似ている気がする。その女の子は、呆然とする俺たちを尻目にゆっくりと瑞香に向かって手を伸ばす。
「さぁ、帰りましょう?」
そう言ってにこりと微笑む。しかしその目に感情はなく、無機質なガラス玉のような目だった。
「そんなにあの遊びが気に入らなかったの?全部元通りにしてあげるから戻りましょう?」
なおも笑う女の子。瑞香だけを捉えるその目は俺たちなど映していなかった。
「あの…えっと、…。」
瑞香自身も状況を読み取れていないのか、言葉が続かない。そもそも彼女はあまり話すのが得意なタイプには見えない。
「君は誰だ。」
そんな中、達也が一歩踏み出して聞く。女の子は、そこで初めて俺たちの存在に気づいたかのようにふいっと視線を向けた。そして首をかしげる。
「あらあら。なんでこんなところにこんなものがあるんでしょう…。そんなに人が好きでしたか?」
女の子が瑞香に聞く。しかし瑞香は答えない。俺たちも尋常ではない物言いに気圧されるばかりだ。
「なぜ先ほどから話さないのです?あ、もしかして記憶を封印されましたか。なるほどそれはいけませんね。では戻して差し上げましょう。」
女の子がそう言って瑞香に向けていた手をまるで猫を呼ぶかのように、ちょいちょいと動かす。その瞬間瑞香が崩れ落ち、俺たちが抱える暇もなく女の子の元へ飛んでいく。
「あっ!」
達也の声。しかし女の子はこちらを見向きもせず、瑞香の頭に手をかざす。俺たちが無言で見守る中、その手から青色の光が放たれる。その光はさっきと同様俺たちを包み込んだ。しかし目をつぶった時、何かの映像が見えた。
桜舞い散る中何人もの人々が笑いあっている。女の子もいれば男の子も、女性も男性もいる。その内誰かが口を開く。
「そうだ、勝負をしようではないか。」
「勝負?」
「勝負とな?」
「うむ。そうさな、おお、あの人間どもを使った勝負はどうだ?」
そう言って下を見る。そこはどうやら雲の上のようで、下には何人もの人間がひしめいている。
「人間?」
「おお、それは面白そうだ。」
「して、どのような勝負を?」
「そうだな。我らが神力で何人もの人間を溶かすことができるか…というのはどうだ?ちょうど良い暇つぶしになるだろう?」
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