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◆◆◆  その後も、大河内が石動の病室を訪れる気配はなかった。  あの一件からひと月が経ち、傷の方はすっかり癒えた。事件の概要も詳らかになり、また、今回の一件に関わった工作員グループも一網打尽にされたことで、これ以上、公安の保護を受ける理由もなくなった石動は、ついに今朝、医師から退院の許可を得た。  全ては面白いほど丸く収まった。唯一、石動にとってマスターピースとも呼べる大河内の消息を除いては。 「では、包帯を取り替えますね」 「お願いします」  石動の返礼に、若い女性看護師はにこやかに微笑む。その笑みは、これまで石動が向けられてきた幾多の笑みとは趣きが異なっていた。同情と労りがこもるその笑みに、これまで散々女たちに向けられてきた羨望や欲望の色はない。  ――まさか、こんなかたちで望みが叶うとはな。  思えばずっと、この顔を憎んでいた。望まずして多くの欲望を引き寄せてしまうこの顔が――石動にイージーな生き方を許してしまうこの顔が。  やがて包帯が解け、素肌が外気に晒される。が、そこに当然感じられるはずの爽快感はない。代わりに、何とも言えないむず痒さが顔の表面を這い回る。 「鏡はありますか」 「鏡……ですか」  問い返す看護師に、石動は小さく頷く。 「はい。傷の様子を確かめたくて」 「え、ええ……私物で結構でしたら……」  言いながら看護師は、ポケットからコンパクトミラーを取り出す。それを受け取ると、さっそく石動は蓋を開き、中を覗いた。  鏡には、顔の右半分を爛れさせたグロテスクな化け物が映っていた。
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