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あの晩、車の爆発とともに石動たちに飛んできたのはオイルフィルターと呼ばれる部品だった。中に高温のオイルを溜め込んだまま飛来したそれは、石動の顔に当たった瞬間、その中身を一気に石動の顔にぶちまけた。
その後、すぐさま石動は中野の警察病院に搬送されたものの、当初は肋骨の処置が優先され、顔の火傷の治療は後回しにされてしまった。もっとも当初は、皮膚移植をしようにも体中に大小さまざまな傷を負い、そもそも移植に耐えうる皮膚が身体のどこにも見当たらなかった、という事情もあるにはあったが。
だが、石動に言わせればそれでよかったのだ。
「ははっ、酷ぇ顔だ」
「で、ですが、皮膚の移植手術さえ行なえば、何とか――」
「ありがとう。でも」
看護師の手に鏡を握らせると、石動はふっと微笑む。相手を魅了するためではない。ただ純粋に、心から石動は笑っていた。
「いいんです。本当に」
その後、ほどなくして処置は終わった。もっとも、傷口の表面を消毒しガーゼと包帯を新品と交換するだけの手間だから、慣れてさえいればさしたる時間はかからない。
「では、おだいじに」
処置を終えると、看護師はそそくさと器具を片づけはじめる。その目がふと、サイドボードに飾られた花に留まった。
「そういえば、お花も交換しないとですね」
「花? でも、まだこんなに元気ですが――」
「でも、せっかくお持ちいただいたので」
「……は?」
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