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 エレベーターに乗り込み、一階に降りる。  さすがは総合病院というだけはあり、午後を大きく回ってもなおロビーは患者で混み合っていた。入院患者の姿も多く、おそらくはリハビリや気分転換のために院内を散策しているのだろう。  それでも、顔の半分をガーゼと包帯とで覆った石動の姿は目立つらしく、誰かとすれ違うたびに奇異と憐憫の視線が石動に注がれた。  そんな中を、石動は構わずに駆け回る。 「……大河内」  あの晩のことは今でもはっきりと覚えている。掻き抱く腕の力強さ。獣じみた汗の匂い。耳の奥を痺れさせる濡れた吐息――それだけではない。初めて吐露された本当の言葉、本当の感情。その一言一句を石動は今なおはっきりと思い出すことができる。  否、忘れることなどできない。  あの日の大河内の言葉は、その全てが石動にとってはかけがえのない宝物だ。 「大河内ッッ!」  なおもロビーを駆けまわる。が、大河内の姿は見当たらない。それでも病室に帰る気になれなくて、ただ闇雲に石動はフロアを駆け回った。 「大河内ぃぃッ!」 「ちょっと」  ふと呼び止められ、振り返る。見ると、あからさまに迷惑顔の年配の看護師がうんざり顔で石動を睨み付けていた。 「病院内ではお静かに願います」  険のある声で言い残すと、看護師はつかつかと診察室の方へ消えてゆく。その背中をぼんやりと見送りながら、石動は、自分を突き動かしていた衝動が急速に霧散してゆくのを感じていた。
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