彼と私の恋心

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彼と私の恋心

   空気に溶けそうな少女たちの姿は、たぶん恋心なのだろう。  どうして2月の終わりから3月始めの時期にだけ彼女たちが見えるのか、理由は分からない。たぶん、心が不安定になるせいだ。  季節の変わり目になると人は脳のホルモンバランスが崩れて、何かと思い悩むようになるらしい。恋に悩む彼女たちはさらに不安になって、その不安が半透明な彼女たちの分身を創り出す。  恋が終わると、彼女たちは消えてしまう。  消えていった半透明な女の子は、たぶん失恋を経験した子なのだ。顔を覆って泣いていた彼女を思い出して、慰めてあげればよかったと思う。けど、私には彼女の『恋心』をどうすることもできない。  自分の『恋心』だって、どうすることもできないんだから。  私は明の背を見つめる。自転車を漕ぐ彼の体は左右にゆれている。その背に体を押しつけて、私は彼の腰に腕を巻きつけていた。  遠目から見れば、恋人同士の登校風景。でも、明は私のことをただの幼馴染としかみていない。明が自転車を止める。踏み切りの甲高い音が鳴って、電車が私たちの前を通過していった。     
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