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電車が去って踏切があがると、その前方に一組の男女が肩を並べて歩いていた。同じ制服を着た先輩たちのカップルだ。
そのカップルの側に、半透明の明がいた。泣きそうな顔をしながら、半透明の明は先輩たちが去っていくのを見つめている。
「ねぇ、まだ俺の恋心って見える?」
小さく明が訪ねてくる。
「見えないよ。もう、どこにもいない」
ぎゅっとそんな明を抱き寄せて、私は嘘をついた。そうっと明は安心したように返事をして自転車を漕ぎだす。
「ちぃーす! 秋先輩に夏先輩! 冬なのに熱いっすねっ!」
自転車のスピードをあげて、明は先輩たちを追い抜いていく。彼の弾んだ声に、先輩たちは苦笑しながら朝の挨拶を送っていた。そんな先輩たちに私はべっと舌を出してやる。
「お前だって、朝から熱いじゃないかよっ!」
男の秋先輩が、明を怒鳴る。
「そんなんじゃないつーの……」
明の声が私の耳朶を突き刺す。その声が妙に耳に残って、私は明の背中に頭を押しつけていた。
「っ……。なんだよ……?」
「違う道、行こう……」
ぎゅっと明の服を掴む。明は無言でベルを鳴らして、いつもとは違う細道に自転車を進めた。仰げば青空が眩しい細道を、私たちを乗せた自転車は走る。
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