誰かの終わり

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初々しい春の陽気が差し込む部屋で、僕は立ち尽くしていた。今、この狭いワンルームの部屋のド真ん中に、うずくまって倒れている死体がある。その死体はドス黒い血溜まりの上に浮いていた。右手にはナイフが握られている。 僕はそんな死体をどうするかを考えている。 近くの川に捨てに行くか。それとも何処かに埋めるか。バラして棄てるか。もういっその事このアパートごと焼いてしまおうか。まぁ、そう言っても僕はこの部屋から出れないのだけれど……。さっきから部屋のドアがビクともしない。窓も開かないし、窓ガラスには、針金が入っていて、割れそうにない。 やっぱり、焼いた方が早いんだろうか。 そもそもなんで僕がこの死体を処理しなきゃいけないのか。僕には関係の無い話のハズなのに。まぁ、僕が殺したんだから、自分で処理をしろってことか……。と言ってもどうしたらいいのかわからない。外に出れないんじゃ何処かに棄てる事も出来ないし。 一日でどうにもならない程腐敗するっていうのはないだろうが、やはり死体と同じ空間にいるというのは嫌だな。僕は部屋を見渡した。スッキリ片付いた綺麗な部屋だ。死体があるという事を除けば、一人暮らしを充分に満喫できるだろう。冷蔵庫の中には、ほとんど何も無い。野菜の端っことかが転がっているばかりだ。 死体以外何にもねぇ部屋だなぁ……。 僕はまた、死体の前に来て、今度は座りこんだ。血溜まりはもうすっかり乾いていた。あと何日、此処にいればいいんだろう。ふと、そんな疑問が頭をよぎる。このまま、ドアが開かなかったら、朽ち果てる死体をただ眺めている事しか出来ないのか。僕は小さなテレビの方を見た。テレビの置いてある台の下に、何かがある。僕はそれに手を伸ばした。 アルバムか? 表紙をめくると、両親に抱えられ、笑っている子供の写真があった。ページをめくるに連れて、その子供は成長していく。ただ、無言で、ゆっくりとページをめくる。そして、アルバムは途中で写真が無くなっていた。 ああ、そうか。アルバムは終わったんだ。僕が終わらせたんだ。 そっとアルバムを閉じて、死体の血溜まりの中に置いた。
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