追想のラビリンス

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追想のラビリンス

(今日もこれといって問題はなさそうだな…) 僕は毎日繰り返される退屈な作業に、小さなため息を吐いた。 僕の仕事はある寂れた遊園地の整備だ。 最近は主にこの広大な迷路の点検を行っている。 ごくたまに、気の短いお客が柵を乗り越えたり、苛々してぶん殴ったりして、板を傷付けたり割ったりすることがある。 そういうのを見つけて補修したり、たまには柵の配置を変え、迷路を変更するのが僕の仕事だ。 最初はずいぶんと迷ったこの迷路も、今ではもう目を閉じていても迷うことはない。 薄暗くなった空の下、僕は気持ち半分で点検を続けながら、歩き慣れた迷路を歩いていた。 お客が帰った後の迷路は、まるで小さな世界を独り占めしてるような気分になれる。 小さな世界の小さな迷宮… 僕は、この小さな世界でたった一人の人間だ。 どこか現実離れした気持ちを感じながら、僕は、迷路の中を見回り続けた。 頭の中は無に等しい。 目は柵を追っているけれど、頭の中はぼんやりとしていた。 それもいつものこと。 けれど、自分がどのあたりにいるのかは、しっかりと本能で把握していた。 あとほんの少しで出口だ。 そうしたら、今日の僕の仕事は終わりだ。 (あれ……?) 僕は目の前の光景に、大きな違和感を感じた。 おかしい…そこには出口があるはずなのに、柵も何もない長い道が続いていた。 僕は狐につままれたような気持ちで、その長い道を歩いて行った。 しばらく歩いて、どうもおかしいと感じた僕は、立ち止まり踵を返した。 「え……?」 振り返った先にはさらにおかしな光景が広がっていた。 今まで僕が点検しながら歩いてきた迷路が、跡形もなくなくなっていたのだ。 (どういうことだ?) 見渡す限り、目に付くものは何もない… 荒れた土地がただ漠然と広がる光景は、とても不気味なものだった。 立ち止まって、あたりを見渡し、絶望的な気持ちで頭を振った。 僕の頭がどうかしてしまったのか? それとも、異世界なんてところに紛れ込んだのか? 様々な想像が頭に浮かんだが、その答えをくれる者はいない。
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