2人が本棚に入れています
本棚に追加
追想のラビリンス
(今日もこれといって問題はなさそうだな…)
僕は毎日繰り返される退屈な作業に、小さなため息を吐いた。
僕の仕事はある寂れた遊園地の整備だ。
最近は主にこの広大な迷路の点検を行っている。
ごくたまに、気の短いお客が柵を乗り越えたり、苛々してぶん殴ったりして、板を傷付けたり割ったりすることがある。
そういうのを見つけて補修したり、たまには柵の配置を変え、迷路を変更するのが僕の仕事だ。
最初はずいぶんと迷ったこの迷路も、今ではもう目を閉じていても迷うことはない。
薄暗くなった空の下、僕は気持ち半分で点検を続けながら、歩き慣れた迷路を歩いていた。
お客が帰った後の迷路は、まるで小さな世界を独り占めしてるような気分になれる。
小さな世界の小さな迷宮…
僕は、この小さな世界でたった一人の人間だ。
どこか現実離れした気持ちを感じながら、僕は、迷路の中を見回り続けた。
頭の中は無に等しい。
目は柵を追っているけれど、頭の中はぼんやりとしていた。
それもいつものこと。
けれど、自分がどのあたりにいるのかは、しっかりと本能で把握していた。
あとほんの少しで出口だ。
そうしたら、今日の僕の仕事は終わりだ。
(あれ……?)
僕は目の前の光景に、大きな違和感を感じた。
おかしい…そこには出口があるはずなのに、柵も何もない長い道が続いていた。
僕は狐につままれたような気持ちで、その長い道を歩いて行った。
しばらく歩いて、どうもおかしいと感じた僕は、立ち止まり踵を返した。
「え……?」
振り返った先にはさらにおかしな光景が広がっていた。
今まで僕が点検しながら歩いてきた迷路が、跡形もなくなくなっていたのだ。
(どういうことだ?)
見渡す限り、目に付くものは何もない…
荒れた土地がただ漠然と広がる光景は、とても不気味なものだった。
立ち止まって、あたりを見渡し、絶望的な気持ちで頭を振った。
僕の頭がどうかしてしまったのか?
それとも、異世界なんてところに紛れ込んだのか?
様々な想像が頭に浮かんだが、その答えをくれる者はいない。
最初のコメントを投稿しよう!