溶解

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“とけた”状態は、僕にとって最も好ましくない。 例えば、溶解度ギリギリまで塩が溶けきった食塩水。或いは、解答が予め書いてある答案用紙。この何方も個性に欠け、魅力が感じられないのだ。隙がない、完全な状態。エンディングまでの展開を全て知っている映画に、誰もお金を掛けたりなんかしないだろう?これは、一度見た作品をもう一度見に行く、とはまた意味が異なる。これは、ストーリーや登場人物の一挙一動を全て把握し記憶できる脳がある、と仮定した場合の話だからだ。 同じ攻略しようがない状況を指すとするならば、“とけない”状態も然りだ。溶質が一切溶けない物質である場合や、問題用紙が存在しない答案用紙。要するに、変化のしようがない状態というのは全くもって面白くないのだ。 では何が最も魅力的なのか?それは、まさに“とける”状態だ。蒸留水に少しずつ塩を足していく。すると、圧倒的な個性を放っていた真っ白な塩化ナトリウムは、その性質の為に、透明な液体へと姿を眩ませる。しかし、その魔法はいつか解ける。夢幻泡沫のほんの僅かな楽しみ。嗚呼、なんと儚く美しい。
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